東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)85号 判決
事実及び理由
一、防水体の形成について
本願考案の防水体における「防水層」を形成するサイジング加工を施した防水紙のような部材は、第一引用例・第二引用例に記載されて公知であることは争いなく、その間に介在させるポリビニールアルコールの薄膜も、第三引用例に記載されて公知であることは争いない。そうして成立に争いない甲第五号証(第三引用例)によると、ポリビニールアルコールの薄膜は、「一時的液反撥性障壁層」すなわち防水層の作用をもつ部材として使用されており、成立に争いない甲第三号証(第一引用例)、甲第四号証(第二引用例)によれば、従来の防水紙も同様に防水層の作用をもつものとして使用されていることが認められる。したがつて、両者を併用して重合し、本願考案における防水体を形成することに格別の工夫を要するともいえないし、それによつて生じた作用効果も後記認定のとおり予想外の顕著さを示すものともいえない。従つて当業者が極めて容易に推考できるものと考えられ、本願考案の構成要件(三)の構成の進歩性を否定した点、審決に判断の誤りがあつたということはできない。
二、作用効果の改善について
前掲甲第三号証から第五号証まで、成立に争いない甲第二号証(本願実用新案公報)を総合して検討すると、従来公知の生理吸収部材(月経帯)における防水紙層(第一、第二引用例)の作用は、経血の浸透をその耐水性によつて一時阻止し、「吸収部材層」に平均的に経血を保持させるとともに、防水紙層下方への浸透をも遅らせるものと認められる。またポリビニールアルコール薄膜(第三引用例)の作用も、防水紙と同様経血の浸透を一時阻止して「吸収部材層」に平均的に経血を保持させるとともに、経血による膨潤・溶解・結合によつてゲルを形成し、これによつても経血の一時的な障壁となるばかりか、経血を保留させて下方への浸透を遅らせて経血の吸収能力を増大させるものと認められる。そうして、本願考案の構成要件(三)における防水体の作用は、上方の「防水層」2により前記認定の防水紙層と同様の作用を、またポリビニールアルコールの薄膜により「防水層」2を浸透してきた経血に対し前記認定のポリビニールアルコール薄膜と同様の作用を、さらに下方の「防水層」2′によつて前記防水紙層と同様の作用を加えて、一段と経血の浸透防止をはかつているものと認められる。そうすると、本願考案における防水体の作用も、従来公知の防水紙層、ポリビニールアルコール薄膜が各別にもつていた作用効果を加えた以上のものとは認めがたい。
原告は本願におけるポリビニールアルコール薄膜の作用がその上下に防水紙層が重合することによつて、第三引用例における吸収部材層との重合の場合と、質的に異なる格段の作用効果の違いを生ずる旨強調するけれども、前記甲第二号証によれば、本願の防水紙層も「水洗便所に流した場合……全てが分解および溶解して水と共に完全に排出される」ことが認められる。したがつて、被告が主張するように防水紙に対する耐水性の加工もおのずから限度があると考えられ、ポリビニールアルコールの薄膜が経血によつて膨潤・溶解し経血とともにゲル化した後に、上下の繊維間隙に対して浸透する範囲、結合ないし充填の度合も、吸収紙層と防水紙層とで著しい差異を生ずるものとは認めがたい。
なお成立に争いない甲第六号証(試験成績書)には、「吸収部材層」に「防水紙層」を重合したもの(第一、第二引用例参照)、「吸収部材層」の中間にポリビニールアルコール薄膜を介在させたもの(第三引用例参照)、「防水紙層」間にポリビニールアルコール薄膜を介在させ、その上に「吸収部材層」を重合したもの(本願考案参照)の三種について、五キログラムの荷重をかけた際における擬血の滲出時間・滲出面積・吸収液量の試験結果が示されている。しかしながら、成立に争いない甲第八号証(厚生省告示第二八五号「生理処理用品基準」)を考えあわせると、前記試験は荷重など必ずしも同上基準に忠実によつたものともいえないし(基準では一キログラム)、生理吸収部材(月経帯)の機能が完全に防水することでなく、経血をできるだけ長時間その内部に吸収・保持すること、および経血が少ない時は、本願と第三引用例と作用効果が同じであることは争いないから、生理的個人差など使用の態様のはばを考えると、本願考案の作用効果の顕著さを示す証拠として、ただちに採用しがたい。従つて本願の作用効果について顕著なものを認めなかつた審決に判断の誤りがあつたとはいえない。
三、結論
そうすると、本件審決には、原告の主張するような判断の誤りはないから、原告の本訴請求は理由がなく、棄却せざるを得ない。